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東京地方裁判所 昭和32年(行モ)21号 決定

東京都世田ケ谷区深沢町四丁目百三十二番地

申立人

坂内唯史

右代理人弁護士

大島英一

右復代理人弁護士

朝比奈新

東京都千代田区大手町一丁目七番地

相手方

東京国税局長

篠川正次

右申立人は、当裁判所に相手方が昭和三十二年一月十七日別紙物件目録記載の宅地につきなした差押が無効であるとして、その無効確認の訴(昭和三十二年(行)第一〇三号事件)を提起し、且つ、右差押に基く公売処分の執行停止を申立てた。

当裁判所は当事者の意見をきいたうえ、右処分の執行により金銭をもつて償うことのできない損害が生ずるのを避けるため、その執行を停止する緊急の必要があるとは認め難いから、その申立を理由がないと認め、次のように決定する。

主文

本件申立を却下する。

(裁判長裁判官 石田哲一 裁判官 地京武人 裁判官 越山安久)

物件目録

東京都千代田区平河町二丁目七番の二

一、宅地 七百四十七坪一合九勺

同 所 同 番の十三

一、宅地 六百九十七坪三合七勺

(参考)

滞納処分執行停止決定申請

東京都世田谷区深沢町四丁目一三二番地

申請人 坂内唯史

同 都中央区日本橋茅場町二丁目一一番地

日報ビル三階

右代理人弁護士 大島英一

同 都千代田区大手町一丁目七番地

被申請人 東京国税局長 篠川正次

申請の趣旨

別紙表示の物件につき昭和三十二年一月十七日被申請人のなした差押に基く公売処分は御庁昭和三十二年(行)第一〇三号贈与税賦課決定処分等無効確認事件の判決が確定するまで停止する。

との裁判を求める。

申請の理由

一、申請の趣旨記載事件訴訟請求原因記載事項を引用する。

二、被申請人は右差押に基き昭和三十二年十二月五日別紙目録記載物件を同月十二日公売することとし、利害関係人に対し同日その旨の通知をなした。(申請人に対しては右通知は未着である。)

三、第一項記載の通り右滞納処分は無効のものであるのみならず、左記理由によつても許さるべきものではない。

即ち申請人は被申請人との話合により一応税金を分納することとなり、昭和三十二年十月中旬被申請人との間に一ケ月金七万円づつ納税する旨の合意が成立した。

申請人は右合意に基き昭和三十二年十月三十一日金七万円、同年十二月一日金七万円を支払つた。

右の如く申請人は被申請人に対し、被申請人の承認した分納計画を確実に実行しているのであるから被申請人は直に公売処分はなすことは出来ないものと云わねばならない。

四、又本件物件は既にフイリッピン大使館敷地にするためフイリッピン国との間に代金二億四千万円にて売買契約が成立しているものであつて、右事実は被申請人も熟知しているところであり、右売買代金より本件税額を一応支払うこととなつているものである。従つて被申請人としては直に本件物件を公売せねばならぬ何等の理由もなく、且、又、公売処分に付することはフイリッピンとの国際信義の問題ともなりその影響重大であり、本件公売は権利の濫用と云いうるものである。

右の次第であるから申請の趣旨記載の如き裁判を求めるため、本申請に及んだ次第である。

疏明方法

一、小切手控(疏第一~第三号証) 三通

一、約束手形控(疏第四~一三号証) 一〇通

一、振替伝票(疏第一四~一九号証) 六通

一、証明書(疏第二〇号証) 一通

一、帳簿(疏第二一号証) 一通

一、債務確認書(疏第二二号証) 一通

一、説明書(疏第二三号証) 一通

一、領収証書(疏第二四、二五号証) 二通

一、陳情書(疏第二六号証) 一通

一、担当事務官との電話連絡と題する書面(疏第二七号証) 一通

一、決算書(疏第二八号証) 一通

一、説明書(疏第二九号証) 一通

一、登記簿謄本(疏第三〇、三一号証) 二通

一、公売通知書(疏第三二号証) 一通

附属書類

一、疏明方法写 各一通

一、委任状 一通

昭和三十二年十二月十日

申請人代理人 大島英一

東京地方裁判所

御中

物件目録

東京都千代田区平河町二丁目七番地二

一、宅地 七四七坪一合九勺

東京都千代田区平河町二丁目七番地一三

一、宅地 六九七坪三合七勺

東京地方裁判所昭和三十二年(行モ)第二十一号

申請人 坂内唯史

被申請人 東京国税局長

昭和三十二年十二月十七日

東京都千代田区大手町一丁目七番地

東京国税局長 篠川正次

東京地方裁判所民事第三部 御中

執行停止申請に対する意見書

申請人の請求は左記の理由により失当であるから却下されるべきである。

理由

一、本訴(東京地裁昭和三十二年(行)第一〇三号贈与税賦課決定処分等無効確認請求事件)における申請人の主張が全く理由のないことは被申請人等が本訴において詳かに主張するところであるが、簡単に述べれば次のとおりである。

申請人は昭和二十九年中において本訴訴状請求原因第一項に記載されている不動産四筆(以下単にA物件と称する)の他に、同年十二月十一日左記物件(以下単にB物件と称する)を取得している。

(一) 神奈川県足柄下郡宮城野村字新林一、二三三の一

山林 三反一九歩

(二) 同所同番地の二

宅地 三拾坪

(三) 同所同番地

一、木造瓦葺平家建 住家 二十七坪

一、附属木造瓦葺平家建 物置 五坪二合五勺

申請人は当時二十一才の国学院大学学生であり、父母(父吉田庄三、母坂内ミノブ)の扶養を受けていたのであるから、右取得資金の贈与を受けたものであることは容易に考えられる。

ところが、贈与税申告期限である昭和三十一年二月二十八日迄に申告をなさないので、玉川税務署資産税係員が調査した結果、右A、B物件の取得資金を父母より贈与を受けたものであると認められたので、申請人に贈与税の申告をなすよう慫慂したところ、申請人は昭和三十一年六月十八日右B物件の取得資金を母坂内ミノブより贈与を受けたことを認め、贈与税申告書(税額二百一万五千円)を王川税務署長に提出した。

A物件取得資金の贈与は右申告に含まれていなかつたので、その後も修正申告書を提出するよう慫慂したが、反対理由がないのにかかわらず申告がなされないので、昭和三十一年九月六日本税金九百二十五万八千円(増差額七百二十四万三千円)無申告加算税金百八十一万七百五十円の更正処分をなしたのである。

申請人は訴状において、A物件取得資金は株式会社レインボーより借受けたものであると主張するが、学生である申請人が不動産を取得するために返済する見込みのない五千万円にも及ぶ借金をすることまた反対に商事会社が資産のないものに無期限、無利子で五千万円の金員を貸付けることは到底常識では考えられない。

まして株式会社レインボーの代表取締役は申請人の母坂内ミノブであるから、右主張が虚偽のものであることは明らかである。

更に右更正処分に対して申請人より昭和三十二年一月二十五日再調査請求書及び審査請求書がそれぞれ玉川税務署長と当職に同時に提出されたが、前者に対しては再調査請求期間経過後であること、後者に対しては再調査の決定を経ていないことの理由によりそれぞれ同年五月二十七日却下した。

したがつて、申請人は右更正処分の取消を求める訴を提起できないこととなつたのにもかかわらず、本訴請求をなしてきたのは、相続税法、行政事件訴訟特例法を無視するものと云わねばならぬ。

二、また、賦課処分の無効確認または取消を本案として執行停止を求めることはできない。

本訴における申請人の主張は、賦課処分が無効であるから差押処分は無効であるとするが、賦課処分の瑕疵は差押処分に承継されない。

差押手続そのものに違法性または無効原因となる瑕疵があるならばともかく、本件差押処分は適法になされており、申請人はその点につき何等の主張もなしていないので、執行停止の請求が賦課処分の無効の主張に基ずいていることは明らかである。しかして賦課処分の無効確認または取消を本案として執行停止を求めることができないことは既に学説判例の明らかにするところであるから、本申請は理由がない。

三、仮りに以上の主張が理由がないとしても、差押にかかわる滞納税金のうちには、申請人が昭和三十二年六月十八日申告した前記贈与税二百一万五千円(昭和三十二年十二月十七日現在残高百九十六万五千円)が含まれているのであるから、差押処分は無効とはならない。

四、申請人は申請の理由第三項で分納の合意が成立しているから公売処分はできないと主張するが、かかる事実はない。

国税徴収上において分納を認め、分納期間中滞納処分を続行しないことができるのは国税徴収法第七条による場合だけであるが、申請人は現在に至るも徴収猶予申請書を当職宛に提出していないし、また、当職は徴収猶予の許可を与えたこともない。

五、更に本件滞納処分の執行により償うべからざる損害は生じない。

本件の場合、申請人の被る損害は差押物件の処分禁止または差押物件の喪失による損害であつて、金銭をもつて償うことのできる損害であることは云うまでもない。

申請人はフイリツピン国と売買契約ができているから国際信義に反すると主張するが、当職はその事実を知らない。

たとえ申請人の主張するとおり売買契約が存在するとしても、それはフイリツピン国と申請人との問題であつて、日本政府との問題ではないから国際信義に反することはない。

以上のとおり申請人の主張には理由がないから本申請は却下されるべきである。

以上

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